情報戦とは--孫子の兵法応用編・最終章

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まずは、反「システム」側の「勝利宣言」をお読みいただきたいのであります。

【特別インタビュー】岩田規久男・学習院大学教授
「日銀は2%インフレ目標にコミットすべし。
わが金融政策のすべてを語ろう」
http://diamond.jp/articles/-/32697
これに即座に反応しましたのが、「システム」側のお三方であります。その反応の中身には実に興味深いものがありまして、今回はこれをご紹介するのであります。

と、その前に、岩田規久男氏の発言をはじめとして、この一連の問題をご理解いただくためのキーポイントとなる「知識」を、あらためてここでご説明しておくのであります。

ポイントとなる「公式」は、この2つだけであります。

  • 実質金利 = 名目金利 − 予想インフレ率
  • 実質金利 = 通貨価値
この公式の意味を「正しく」理解さえしていれば、なんの問題もないのであります。

すなわち、デフレ社会でずっとマイナスであった予想インフレ率が、プラスに転じることによって、実質金利をプラスからマイナスに下げる効果が生まれると言うことであります。これが、直接的に「通貨価値」に連動して、円安へと導くことになる。

この「円安」が続くとの観測が、株高を生み、景気を刺激してGDPを引き上げ、デフレ解消へと経済が動いていくのであります。

そして、この予想インフレ率に直接コミットメントする立場にあるのが、日銀であると言うことであります。

ところが、いつまでたっても日銀は、これを拒否し続けてきたのであります。これを、安倍発言がものの見事にひっくりかえして、予想インフレ率をプラスに変えた。

このあたりの事情は、以前なんども取り上げてきましたので、ここではくりかえさないことにするのであります。

と言うことで、最初にご登場いただきますのは、金融アナリストである久保田博幸氏であります。

 次に企業にインフレ期待が生まれる、設備投資に動き出し、輸出を増やすための生産を増強する、企業収益が改善すると岩田教授は指摘するが、ちょっと待ってほしい。インフレ期待が生まれると設備投資がなぜ動き出すのか。インフレ期待だけで需要が増えるのか、もう少し私にもわかる説明がほしい。

 大事なのはインフレ期待を起こすことであって、貸し出しを増やすことではないとも言っておられるが、確かに企業は200兆円を超える現預金を持っている。しかし、その資金を動かすのはインフレ期待だけで可能なのか。

 「足元でインフレ期待は起こっていないが、市場のプロがインフレを期待することで、徐々に実体経済に波及していく。」ともおっしゃるが、市場のプロとは誰で、何を理由にそんな期待を強めるのか。どこかのプロが期待するだけで、実態経済にどう波及するというのであろうか。

 インフレ率を2%にするために必要なのが、日銀当座預金を昨年末の約40兆円の倍、70?80兆円にするとのお話であるが、そもそも企業の資金が預貯金に眠っているのと同様に、金融機関の資金が日銀の当座預金に眠っているわけで、その残高が増えるとどのようにして、物価に働きかけるのか、もう少し具体的な説明がほしい。

 経済学の教科書には「準備預金が増えたら銀行は貸し出しを伸ばし、マネーサプライが増加する」という説明があったようだが、これは現在ではほとんど通用しない。それ以前に岩田教授は貸出は増やす必要はないと言っている。日銀の当座預金残高が増えれば物価が上がるという理屈がそもそも良くわからない。ぜひこのあたり、日銀の副総裁となられた際に、もう少し詳しくご説明いただきたい。
岩田規久男教授によるインフレ率を2%にするためには

くりかえし岩田教授へ「説明」を要求する久保田氏でありますが、このすべての答えは、久保田氏自身が、単に予想インフレ率が実質金利を引き下げると言う直接的メカニズムを理解すればすむことであります。

結局のところ、久保田氏をはじめとするみなさん、上掲の2つの「公式」の意味が正しく理解できていないと言うことであります。

しかも、「実質金利」の意味も、まったくもってわかっていない。

この「実質金利」の存在こそが、資本主義経済がまわっていくための基本中の基本であります、「根本原理」となるものであります。

資本主義経済とは、すなわち貨幣経済のことであります。この貨幣すなわち通貨の価値を規定するのが、件の「実質金利」となるのであります。

ふつうに考えれば、これは簡単に理解できることでありますが、手元にある通貨の金利が高いと言うことは、それを保有し続けるかぎりにおいて通貨の総額が増えていくことを意味しているのであります。つまり、通貨価値が高くなっていくと言うことであります。

逆に、金利が下がれば下がるだけ、通貨価値は下がっていくことになるのは、自明のことであります。

でありますから、この通貨は売られ、結果「円安」となるのであります。

さて、続いてご登場いただくのが、「予想インフレ率」と「インフレ率」を混同しつづける、ちまた有名人の池田信夫先生であります。

副総裁候補である岩田規久男氏の論文は「量的緩和で予想インフレ率が上がって株価が上がる」と主張しているが、これも回帰モデルなので因果関係については何もいえない。それ以前に、上の図でも明らかなように、マネタリーベースと予想インフレ率(物価連動国債のブレークイーブン・インフレ率)にはほとんど相関がない。岩田氏はこのあやしい関係を根拠に「銀行貸出が増えなくてもインフレになる」と主張して

量的緩和→予想インフレ率の上昇→日米予想実質金利差の縮小→円安→株価上昇→投資拡大→総需要の拡大→デフレ脱却

というバラ色の夢を描くのだが、気の毒なことに肝心の予想インフレ率との因果関係が証明できないので、そのあとは「風が吹いたら桶屋がもうかる」みたいなお話に過ぎない。致命的な欠陥は、日銀が「インフレにするぞ!」と宣言しただけでは予想は変わらないということだ。インフレにする手段をもっていない日銀がそんな宣言をしても、市場参加者は信じないのである。
風が吹いたら岩田規久男氏の桶屋はもうかるのか

あいかわらず、であります。「予想インフレ率」と言う概念が、いまだにご理解いただけないようであります。

しかも、これまでの「混同」を糊塗するために、「物価連動国債のブレークイーブン・インフレ率」などと言う注釈を加えて、さも理解できているかのごとく装うけれど、単に高橋洋一氏の記事から拝借してきただけ。

 詳しい計算は省略するが、普通の国債の流通利回りと物価連動国債の流通利回りの差は、予想インフレ率になり、ブレークイーブンインフレ率と呼ばれている。予想インフレ率がどうなるかは、政策決定に重要なので、米国では金融政策の決定の際に参考にされる数字である。
検討すべき5年もの物価連動国債 日銀新総裁の評価にも
「量的緩和→予想インフレ率の上昇」と書いたところで、自分自身が予想インフレ率の意味を取り違えていることが、ばればれであります。

冒頭のダイヤモンドオンラインの記事をお読みいただければ明らかでありますが、岩田氏は、今回の安倍発言(アベノミクス)を契機に予想インフレ率がプラスになった、と言っているだけであります。

「量的緩和」と言う、具体的な「結果」と、「予想」インフレ率との間の、相関なるものの、あるなし、など、いまだれも問題にしてはいないのであります。

さらには、「インフレにする手段をもっていない日銀」と池田先生は書くのであります。

池田先生、なにを血迷っておられるのでありましょうか。

いまのいま、議論の本題とは、日銀はインフレにする手段を持っているのか、持っていないのか。これを議論しているのではありませんか。

であるにもかかわらず、自分たちの結論を「論拠」にするなどと言うのは、致命的ルール違反。即退場、一発アウトであります。

それにしても、であります。

世間のみなさまには、すでにこれは勝負あったり、であります。これを誰も池田先生に、言えない。こわいからであります。

その一人でありますのが、続いてご紹介いたします、池尾和人先生であります。

ベースマネー(base moneyまたはmonetary base)の供給量を増やせば、それだけで予想インフレ率が高まるといった乱暴な議論をする人達がいる。そして、そうした議論をする人達のうちの一人が日銀副総裁に指名される見込みだというご時世だが、デフレ脱却論議の原典であるクルーグマンの議論(Krugman 1998、邦訳)は、さすがにもっと論理的に筋の通ったものとなっている。そこで、池田さんの「こども版」とまではいかなくても、できるだけ分かり易くクルーグマンの議論の要点を解説してみよう。
クルーグマンの議論を振り返る
クルーグマンをだしにしてはいるものの、言っていることは、単に「予想インフレ率」における「予想」の意味がなんであるか、これにつきるのであります。(この点で池田先生の「混同」と言う間違いに釘を刺している)

もちろん、これがアゴラ村の住民でありながら、学者としての矜持も維持したいがためではありますが、これから半年、アゴラ村の住民であり続けるのか、池尾先生には、必ずや、この選択をせまられることになると、いまKAIは、こう予言するのであります。 KAI