知の爆発−−直感を疎かにしてはいけない(9)

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いまだ興奮冷めやらぬKAIでありますが、いくつかご指摘いただいた点がありますので、今回は若干のこの補足をさせていただくのであります。

まずは、気が早いのではありますが、ノーベル賞と言えば、受賞するのは、フアン・マルダセナ博士と、大栗博司博士をリーダーとするCaltechの研究グループであります。

マルダセナ博士とは、今回の大栗先生の論文で重要な理論的基礎となったAdS/CFT対応と言われる定式化の概念を打ち立てた人物なのであります。

またまたAdS/CFT対応なんて、小難しい言葉が出てきたのでありますが、これまた誤解を恐れずに解説いたしますならば、超弦理論を発展させた超重力理論と、量子力学の理論である場の量子論とは、同型の理論であり、両者は物理現象を異なる形で説明しているだけで、まったく同じ理論であると言うことであります。

さらにであります。

これを、超直感的にご説明いたしますならば、物理学とはいかなる学問であるのか。

これまで、私たちは、「物理学」の言葉の中の「物」について、これを数理的にいかに理解するかを究めてきたと言えるのではないかと思うのであります。

この「物」を理解するために、その入れ物である「空間」を、ある意味無条件で受け入れてきたのであります。

そして、「物」と「物」の間に働く力である重力とは、一般相対性理論ではその「物」が存在する「空間」の構造と言う形状に起因する力であると説明されたのであります。

ところが、一方の量子力学である場の量子論では、力とは量子の交換であるとして、重力とは、重力子(グラビトン)に起因する力であり、この重力子をいかに発見するかに研究の主題が置かれてきたのであります。

この流れを大きく覆そうとしているのが、超弦理論であり、超重力理論であり、AdS/CFT対応理論であるのであります。

なにがどう覆されようとしているのか。

それは、「空間」とは「物」である、と言う理解であります。

これは、昔言われたエーテルとはまったく異なる概念なのでありますが、これを詳細にご説明し始めるとまたまたわけわかめになりますので、すぱっとお話を先に進めることにするのであります。

すなわち、もともと、アプリオリ(原理的)に「空間」が存在するのではなく、「物」の性質の一つとして「空間」がこの世の中に出現してきたのだよと、つまりはそう言うことなのであります。

ですから、さきほど一般相対性理論における重力の説明も、これは「空間」自体が持つ性質ではなく、「空間」を生成している「物」の性質に起因する力であると言うことなのであります。

そうです、物理とは、「物」と「空間」が最初からあると言う二元論ではなく、あるのは「物」でしかない、つまりはそう言う理解をいま私たちは求められているのであります。

まさに、この理解こそが、今回の画期的論文である「量子もつれが時空を形成する」との本質的意味なのであります。(「物」である量子の性質である量子もつれこそが時空を形成していると言うことですね)

さて、ここで、前回のエントリーで言及しましたこの文言にある鏡像対称性の理解について、これは違うのではないかとのコメントがありましたので、以下補足させていただくのであります。

ここで、この鏡像対称性を、あらためてイメージしていただきたいのであります。鏡像対称性とは、鏡の現象であります。すなわち、鏡が存在しなければ決して現れない現象であります。

そうです、鏡こそ、4次元時空間の象徴であるのであります。
知の爆発−−直感を疎かにしてはいけない(8)

先にリンク先のエントリーで詳細にご説明していますとおりなのでありますが、専門の物理学者でさえ、鏡像対称性とは左右の反転であるとの誤った理解があるのであります。

鏡像対称性とは、あくまで「前後の対称性」であります。

では、4次元時空の「前後」とは、何か。

それは、4次元時空+前後という次元の世界なのであります。

こんな世界はなかなか想像しがたいものがあるのでありますが、私たちが住んでいるこの4次元世界と言う鏡に映る、前後を反転した、もう一つの世界があると「直感的」にイメージしていただければよろしいのであります。

まるで嘘のようなお話ではありますが、この鏡に映った世界の存在こそが、鏡である4次元時空そのものを生み出している、根源の存在なのであると、つまりはそう言うことであったのであります。

まことにもって、不可思議な世界なのであります。 KAI